1年単位の変形労働時間制に関する協定届

 

 

1年単位の変形労働時間制を採用するときに作成する書類が、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」です。

1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定を締結し、1年単位の変形労働時間制に関する協定届を行政官庁に提出しなければなりません。

1年単位の変形労働時間制は、労働時間を弾力的に変形する制度で、「特定された週において40時間または特定された日において8時間を超えて労働させることができる」と規定されています。

労働基準法における法定労働時間は、「休憩時間を除き1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させてはならない」と規定されています。1年単位の変形労働時間制を採用することで、使用者は対象期間(特定された1年以内の一定期間)において、法定労働時間の規定を緩めて労働者を使用することができます。ただし、対象期間を平均した1週間当たりの労働時間が、法定労働時間(週40時間)を超えてはなりません。

井上とまと

「特定された週」または「特定された日」のことを対象期間といい、対象期間は1年以内の期間であれば「3か月」や「半年」とすることもできます。ただし、「1か月」以下にすることはできません。

また、対象期間が3か月を超える場合には、次のような制限も設けられています。

対象期間3か月以下3か月超
労働日数の限度なし最大280日(280日×対象期間の暦日数 / 365日)
1日の労働時間の上限10時間10時間
1週間の労働時間の上限52時間52時間

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1年単位の変形労働時間制に関する協定届を行政官庁に届け出るとともに、有効期間を定めなければなりません。

 

1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届の作成手順

 

それでは、1年単位の変形労働時間制に関する協定届を一緒に作成していきましょう。

今回も、「株式会社 ヤマノ金属」の代表取締役である「山野金男(やまのかねお)」さんをモデルに進めていきます。

 

 

事務所やデスク周りに必要なものは楽天市場 でお得にそろえましょう!



 

事業の情報

①事業の種類は、労災保険率適用事業細目表に記されている「事業の種類」の中から、その事業所に該当するものを選んで記入します。株式会社 ヤマノ金属では、自動車用の金属部品を製造しています。そのため、事業の種類は「金属材料品製造業」と記入します。

②事業の名称は、その事業所の名前を記入します。ここでは「株式会社 ヤマノ金属」と記入します。

井上とまと

株式会社 ヤマノ金属は「法人」です。そのため、法人格も記入します。

③事業の所在地は、事業所がある場所の住所を記入します。

事業の所在地
店舗、社屋、事務所などを持つ場合は、事業の所在地はその店舗などがある住所を記入します。一方、店舗などを持たずに事業を経営している場合(フリーランスなど)は、自宅などの主たる活動拠点を記入します。

④常時使用する労働者数は、1年単位の変形労働時間制に関する協定を締結した時点での常時使用する労働者の数を記入します。ヤマノ金属の常時使用する労働者は「45人」です。

常時使用する労働者
常態として働いている者という意味です。たとえば、常に7人の労働者を雇用していて、繁忙期の2~3か月だけ増員する場合の「常時使用する労働者数」は、7人となります。また、労働者にはあらゆる雇用形態の労働者が含まれますが、前文のように繁忙期だけ雇用する労働者は含まれません。

 

協定の内容

①該当労働者数は、1年単位の変形労働時間制の対象となる労働者の数を記入します。また、満18歳未満の者は(括弧)内に記入します。ヤマノ金属では、「35人」の労働者が1年単位の変形労働時間制の対象となります。

②対象期間及び特定期間は、1年単位の変形労働時間制の対象となる期間(対象期間)を記入します。また、満18歳未満の者の対象期間は、(括弧)内に記入します。さらに、特定期間(対象期間中の特に繁忙な期間)を設定する場合には、その期間も記入します。

井上とまと

たとえば、旅行関係の業種では、GWや夏休みシーズンに忙しくなるため、特定期間(対象期間中の特に繁忙な期間)だけ平時よりもさらに労働時間を延長させることがきます。

③対象期間中の各日及び各週の労働時間並びに所定休日は、当該欄に簡潔に記入することができないことが多いため、基本的に「別紙(勤務表など)」と記入します。

④対象期間中の1週間の平均労働時間数は、40時間以内の時間を記入します。

⑤協定の有効期間は、1年単位の変形労働時間制の対象となる期間の起算日と対象期間を記入します。

 

労働時間の上限A

①労働時間が最も長い日の労働時間数②労働時間が最も長い週の労働時間数は、それぞれその時間を記入します。また、(括弧)には、満18歳未満の者の労働時間の上限を記入します。ヤマノ金属では、変形期間中において1日最大「10時間」、1週間最大「48時間」労働させることができるようにしています。

③対象期間中の総労働日数は、対象期間中のすべての労働日数を記入します。対象期間が3か月を超える場合には、280日(280日×対象期間中の暦日数 / 365日)を超えてはなりません。

 

労働時間の上限B

①労働時間が48時間を超える週の最長連続週数は、そのまま記入します。「労働時間が48時間を超える週の総数」ではありません。

②対象期間中の労働時間が48時間を超える週の数は、そのまま記入します。こちらは「労働時間が48時間を超える週の総数」になります。ヤマノ金属では労働時間が48時間を超えることはありません。そのため、ここでは「0」と記入します。

③対象期間中の最も長い連続労働日数は、そのまま記入します。ヤマノ金属では、対象期間中の最も長い連続労働日数を「6日」としていますが、特定期間は設けていないため、特定期間中の最も長い連続労働日数は未記入としています。

連続労働日数
労働基準法第35条 において、連続労働日数は6日を限度としていますが、特定期間を設けている場合には、1週間に1日の休日が確保できる連続労働日数(最大12日間)を限度としています。

④特定期間中の最も長い連続労働日数は、そのまま記入します。

 

旧協定の情報

①旧協定の対象期間は、前回の1年単位の変形労働時間制の対象期間を記入します。「起算日から対象期間」というかたちで記入します。

②旧協定の労働時間が最も長い週の労働時間数は、前回の1年単位の変形労働時間制の「労働時間が最も長い週の労働時間数」を記入します。

③旧協定の労働時間が最も長い日の労働時間数は、前回の1年単位の変形労働時間制の「労働時間が最も長い日の労働時間数」を記入します。

④旧協定の対象期間中の総労働日数は、前回の1年単位の変形労働時間制の「対象期間中の総労働日数」を記入します。

井上とまと

いずれも前回の1年単位の変形労働時間制の情報を記入します。旧協定が時期的に連続していなくても、直近の協定があればその情報を記入します。

 

欄外下A

①協定の成立年月日は、 1年単位の変形労働時間制に係る労使協定が成立した日を記入します。

②代表する者の職名・氏名は、労使協定を締結するときの労働者側の代表者の所属している事業所の名称、代表者の職名および氏名を記入し、代表者の印鑑を押します。

③選出方法は、労働者側の代表者の選出方法を記入します。

労働者側の代表者の選出方法
労働基準法に「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」と規定されていて、民主的な手続きが取られていることが大切です。

④2つのチェックボックスは、それぞれの事項に該当していたら、□に✓を入れてください。労使協定が正常に締結されていれば、問題なく✓が入ります。

 

欄外下B

①欄外の日付を記入するところには、1年単位の変形労働時間制に関する協定届を提出する日を記入します。

②左端の「___労働基準監督署長 殿」には、事業所がある地域を管轄する労働基準監督署(長)の名称を記入します。ヤマノ金属は、埼玉県草加市栄町にありますから、ここでは「春日部」と記入します。

③使用者の情報は、事業所の名称、事業主の職名、事業主の氏名を記入し、事業所または事業主の印鑑を押します。

 


 

以上で、1年単位の変形労働時間制に関する協定届の作成が終わりました。

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、必ず労使協定を締結しなくてはなりません。また、就業規則にもその旨を明記しなければなりません。

1年単位の変形労働時間制のみならず、他の変形労働時間制にも共通していますが、変形労働時間制では無制限に労働時間を延長しできるというわけではなく、変形する期間(1年単位の変形労働時間制においては対象期間)を平均したときに、法定労働時間(休憩時間を除き1週間に40時間、1日に8時間)を超えないようにしなければなりません。

しかし、1年単位の変形労働時間制は、対象期間を最大で1年という長い期間に設定できるため、次の表のような変則的な労働時間に設定することもできてしまいます。

1月週40時間×4週=160時間
2月週40時間×4週=160時間
3月週20時間×4週=80時間
4月週20時間×4週=80時間
5月週20時間×4週=80時間
6月週20時間×4週=80時間
7月週20時間×4週=80時間
8月週20時間×4週=80時間
9月週80時間×4週=320時間
10月週80時間×4週=320時間
11月週40時間×4週=160時間
12月週80時間×4週=320時間
平均1,920時間÷48週=週40時間

*1か月を28日(4週間)として計算しています。

この場合、9月、10月、12月は法定労働時間の2倍の労働を強いられることになります。これは、厚生労働省が提唱する過労死ラインを大幅に超えるものです。

そのため、1年単位の変形労働時間制では、対象期間においても労働時間の上限を設けています。これにより、労働者の健康を害すような長時間労働を抑制しています。

 

Xでも情報を発信しています!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA